生涯教育の視点で中学受験を考える

2022年02月14日/ 濱中淳子

昨年10月から12月まで放送された日本テレビ系のドラマ「二月の勝者」が話題になりました.加熱する中学受験をテーマにしたドラマでしたが,なんといっても印象的だったのは,主人公,黒木蔵人(演:柳楽優弥さん)による数々の過激な発言です.「合格のためにもっとも重要なのは,父親の経済力と母親の狂気」「中学受験は課金ゲーム」「凡人こそ,中学受験をすべき」等々.そしてまた,次のような発言もありました――「『私立中学への進学』すなわち,『中学受験』は特急券です」.最終学歴としての大学,より選抜性の高い大学に進学したいのであれば,中学受験をし,私立中学に行ったほうがよいというのが,この発言の趣旨だったようです.

ところで,中学受験については,優れて興味深い研究対象だということが指摘できます.特急券という言葉から想起されるように,格差問題の文脈で中学受験を問い直すというのも,1つの研究テーマになります.生まれ(親)によって特急に乗ることができるかどうかが分かれる.その実態や問題性を追究することは大事な作業です.

しかし,それだけではありません.次のようなものも研究テーマとして挙げることができるでしょう.

  • 中・高の6年間を1つの学校で過ごす「中高一貫」というシステムに,どのような効果を期待することができるでしょうか.たとえば,高校受験を意識した勉強をしなくてすむ,ということはメリットとして語られます.しかし,それは本当にメリットだと言い切れるのでしょうか.メリットになるためには,なんらかのほかの条件が必要になるということはないのでしょうか.
  • 首都圏の私学には,いまも「別学」を貫いているところが少なくありません.では,共学ではなく,別学で6年間を過ごすことに,どのような意味があるのでしょうか.異性の目を気にしなくてもいい環境のメリット・デメリットについて,どのように整理されるでしょうか.
  • 中高一貫校の効果や意味は,いつ実感できるものなのでしょうか.卒業後,働くようになってから,あるいは家庭人になってからでないと実感できない効果というものはあるのでしょうか.
  • 特急券として語られる中学受験に指摘されるのは有利性だけなのでしょうか.逆に,これまで十分に語られてこなかったデメリットのようなものはないでしょうか.

ここで私自身の経験を紹介すれば,以前,東京の開成中学校・高等学校と兵庫の灘中学校・灘高等学校の卒業生にアンケート調査をし,中高時代の実態や仕事生活への影響について分析したことがあります.その成果は『「超」進学校 開成・灘の卒業生――その教育は仕事に活きるか』(2016年,ちくま新書)としてまとめましたが,その際に痛感したのは,中高一貫校の研究がいかに手薄状態にあるかということです.イメージ先行で語られがちな対象であり,わかっていることは決して多くありません.ちなみに,解明がほとんど進んでいないのは,早稲田の付属・系属校についても同様です.はたして,早稲田の付属・系属校での6年間は,どう意味づけられるのでしょうか….

教育学の視点で中高一貫校を考える.中学受験を,人生というスパンで,生涯教育研究の視点で考える.まだまだ未開拓の領域です.ご関心のある方は,卒業研究で取り組んでみてはいかがでしょうか.

入学試験 合格通知書

 

著者プロフィール

濱中淳子 (はまなか じゅんこ)

教育・総合科学学術院 大学院教育学研究科 教授
専門分野:教育社会学,高等教育論
https://w-rdb.waseda.jp/html/100001497_ja.html