卒業生に贈る言葉

2023年03月28日/ 管理人

2023年3月26日、早稲田大学教育学部卒業式が行われました。そしてこの3月末、長らく私たちの専修を支えてくださった雪嶋宏一先生もご退職されます。

雪嶋先生が、卒業生の皆さんに送った言葉を以下に掲載しておきます。卒業生のみなさんにはいまいちど触れてほしい、そして在学生の皆さんにもぜひ読んでほしいメッセージです。

雪嶋先生、ありがとうございました。今後の先生のご活躍を祈念いたします。


 

卒業生に贈る言葉

雪嶋宏一

2023年3月26日

 

皆さんご卒業おめでとうございます。朝早くから準備して卒業式に臨んだ皆さんはすでにお腹がペコペコだと思いますが、少しだけお時間をください。

私は今年度で早稲田大学を退職する雪嶋と申します。ここにいるほとんどの皆さんとは今日初めてお会いします。皆さんの多くの方が入学した2019年度に私は特別研究期間を頂いて4月初旬から翌年3月までヨーロッパで研究生活を送っていましたので、残念ながら皆さんと一緒に学ぶ機会はほとんどありませんでした。そのため、今日は皆さんとお会いする最初で最後の日となりました。今日は私にとっても早稲田大学の2回目の卒業の日となりました。私はこの卒業までに45年もかかりました。図書館で30年、教育・総合科学学術院で15年お世話になりました。先生方、助手の皆様、職員の皆様、そして学生の皆さんに心より御礼申し上げます。

雪嶋宏一教授

さて、今日の晴れの卒業式を迎えることができたのは皆さんご自身の努力の賜物です。皆さんは新型コロナウィルスのパンデミックの前に大学に入学しましたので、入学式の日には楽しい大学生活を夢見ていたはずです。しかし、1年後の2020年春には新型コロナウィルスのパンデミックになり、授業開始も5月になり、しかも授業はすべてオンライン、大学へ通うことすらできなくなってしまいました。さぞがっかりしたことだと思います。その点では我々教員もこれまで通りに授業ができず、授業方法を大きく変えなければなりませんでしたので、強いストレスを感じる毎日でした。2021年度には授業が対面になっていきましたが、コロナウィルスの脅威がありましたので、教室からコロナ患者を出してはいけないと学生たちと約束して恐る恐る授業を行いました。3年目には授業でグループワークもできるようになり、安心できるようになりましたが、その反面コロナがより一層近づいてきたと感じました。この3年間、皆さんは予想もつかないような大変な学生生活を送ったと思います。友達と会っておしゃべりをしたり、一緒にスポーツを楽しんだり、お酒を飲んではめを外したり、旅行に行って新しい経験をしたりすることもできなかったと思います。学生時代は人生の中で最も楽しい時期のはずですが、皆さんにとっての学生生活は期待外れであったかもしれません。それでも、大学をこうして卒業して社会に出ていく日がきたことは先ずは喜ばしいことです。

皆さんがこれから踏み出す社会は広大無辺です。そこに設計図を描くのも、地図を書いて道を作るのも皆さんご自身です。それは皆さんの創造と選択の余地がたっぷりある場所であり、皆さん自身が責任をもって形にしていく場所でもあります。生涯教育学専修で学んだ事柄を大いに生かして、その設計図を実現していくことが皆さんの人生そのものとなります。例えば、新たに資格を取得したり、まったく新しいことにチャレンジしたりすることです。皆さんが広い社会で活躍する時が来ました。

しかしながら、この社会には問題が山積しています。例えば、コロナウィルスはまだなくなったわけではありませんし、次のウィルスが現れるかもしれません。実際、地球温暖化の影響によってシベリアの永久凍土が溶け出し、未知の細菌が見つかったというニュースすらあります。一つ間違えば新たなパンデミックを引き起こしかねません。これは何としても防がなければなりません。

また、愚にもつかない戦争をおっぱじめた小心者の独裁者が隣国にいます。何十万人もの命を犠牲にしても全く平気な人間です。核兵器の使用すら躊躇していません。今再び核戦争の脅威が身近になっています。先日お亡くなりになったノーベル文学賞作家の大江健三郎さんは1973年に核シェルターに住む若者たちの姿を描いた長編小説『洪水はわが魂に及び』を発表して核の脅威に警鐘を鳴らしました。当時はこの思いを日本人も世界の人々も共有していました。私たちはそのことを思い返してみるべきです。ロシア・ウクライナ戦争は膨大なエネルギーを浪費し、大量の二酸化炭素を排出して、原子力発電所すら人質にとっています。いつ原発が暴走するかわかりません。1986年のチョルノビリ原子力発電所のメルトダウンは誰もが知っていることです。このような脅威の中でこの戦争がどのように終わるのかが現下の最大の問題です。

そして、環境破壊、地球温暖化の問題が大きくのしかかっています。皆さんは2070年の自分を想像したことがありますか?環境活動家のグレタ・トゥンベリさんはいつも2070年代に自分が生きていられるかどうかを社会に問うてきました。地球環境が良好であれば皆さんは2070年どころか22世紀を見られる可能性を持っています。つまり、これからの未来を作っていくのは皆さんの仕事なのです。今の政治家や経済人で2070年まで生きている人は誰もいませんし、2050年を超えることができない人のほうが多いのです。彼らは10年先を見通すことすらできません。そんな人たちに未来を任せるわけにはいきません。これからは皆さんの出番です。皆さんの時代です。一人一人が健康で安心して暮らせる22世紀を夢見てください。そのために今取り組まなければならない課題を自分事として見出すことが必要です。一人一人のこうした活動がやがて大きな花を咲かせ、豊かな実を結んでいきます。

これが、社会に一歩を踏み出す皆さんへの私からのエールです。
皆さんの晴れやかな今日の門出を祝福します。

 

ありがとうございました!(小林敦子先生と)

 

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管理人 (kaerukun)