世界史の転換点

2022年03月30日/ 雪嶋宏一

2020年春から新型コロナウィルスのパンデミックが始まり、2年が経過しました。大きな夢をもって早稲田大学に入学された学生の皆さんは、この2年間、日々経験したことのないような困難に直面して、コロナ禍を耐えてきたのではないかと思います。

そのコロナ禍もそろそろ終盤を迎えると思われた2022年春、ロシア軍が隣国ウクライナに軍事侵攻して、とてつもない戦争の惨禍をもたらしています。21世紀になってこのような戦争が勃発するとは、多くの人が想定していませんでした。ロシアとウクライナは兄弟国家として知られ、言語、文化、歴史を共有し、両国に親子、親戚、知人がおり、非常に近しい関係にあります。さらに、ロシア人にとっても、キーウ(キエフ)はロシア国家発祥の地であり、まさにロシア人の原郷です。その地に戦車で攻め入って破壊するという暴挙が現在進行しています。私は学生時代にロシア語とウクライナ語を学び、ロシア、ウクライナの各地を旅し、ポーランドも訪問しました。そのため、私にとってこの戦争は人ごとではなく、とても許しがたく、悔しくて落ち着かない毎日となっています。

コロナウィルスのパンデミック、そしてロシア軍のウクライナ侵略は確実に世界史の転換点となります。あと数年あるいは数十年たった時、あの戦争が歴史の曲がり角であったと誰もが認識することになるでしょう。

私は、これまでの人生でこのような体験を2回しています。1回目は1989年の東西冷戦の終結となったベルリンの壁の崩壊です。この年の10月に西ベルリンに滞在して、Sバーンという国鉄の乗りベルリンの壁を越えて東ベルリンの図書館を訪問しました。それから3週間して壁は市民によって破壊され、私がヨーロッパに滞在する間に鉄のカーテンは崩れ去りました。その時、まさに歴史の転換を実感したのです。

2回目は1991年8月のことです。レニングラード(現サンクト・ペテルベルク)のエルミタージュ博物館を訪問している最中に、モスクワでソ連軍によるクーデタが勃発して、レニングラードも騒然となりました。今のようにインターネットがあるわけではないので、詳しい情報が得られず、エルミタージュ博物館の友人に聞いて、はじめて事態を正確に知ることができました。それから1週間のレニングラード滞在期間内にクーデタは鎮圧され、ソ連軍の首謀者が逮捕され、まもなくソ連邦が崩壊しました。この1週間でまた歴史がグイっと動いたと感じました。歴史はだんだんと変化するわけではなく、ある時突然転換するのだということを実感したのです。

皆さん、今地球規模で起きているとんでもない事態に是非注目して下さい。これが今後、世界恐慌のような金融の混乱ばかりでなく、世界的な食糧危機や環境汚染、環境破壊などのさらに深刻なパニックを引き起こすかもしれません。この事態は間違いなく世界史の大転換点となります。そのような認識をもってこの事態の推移を自分事としてウォッチし続けて下さい。

著者プロフィール

雪嶋宏一 (ゆきしま こういち)

教育・総合科学学術院 教育学部 教授(2023年3月定年退職)
専門分野:図書館情報学,西洋書誌学,書物学,人文社会情報学