数学が苦手でも大丈夫? 教育調査Ⅰ・Ⅱ

2022年10月27日/ 藤本啓寛

このコラムでは、生涯教育学専修の3年次必修「教育調査Ⅰ・Ⅱ」という授業を紹介したいと思います。生涯教育学専修の3年生は、春学期と秋学期でそれぞれ1科目ずつ、計2科目をセットで履修することになっています。春学期の「教育調査Ⅰ」では、仮説の設定、質問紙の作成、基礎集計といった教育調査の基礎を学びます。秋学期の「教育調査Ⅱ」では、クロス表の作成や独立性の検定といった応用的な分析を学びます。3年次に履修することで、4年次に卒業論文を執筆するうえで役立つ教育調査のスキルを身に付けることができます。SPSSという統計ソフトを扱うため、授業はコンピュータールームで行われます。また、比較的少人数のクラス編成と複数人のティーチングアシスタント配置によって、演習において個別的なフィードバックを受けやすい環境を作っているのも特徴の一つです。

コラム 藤本啓寛助教

生涯教育学専修に入学してくる多くの学生は、高校で文系、大学入試でも文系科目を中心に勉強していたためか、数学を苦手としている学生が多いように思います。したがって数学を用いた統計を学修する教育調査Ⅰ・Ⅱに対して、苦手意識を感じたまま履修し始める学生も多いようです。このコラムを読まれている皆さんはいかがでしょうか。

「教育調査」の授業目標は、数学や統計そのものについての理解を深めることではありません。むしろ、シラバスに記載されているように、自らの関心に即して問うべき課題を設定し、それを明らかにする力をつけることです。したがって数学や統計はあくまでも手段に過ぎません。むしろ、「なぜこのような手続きを踏むのか」「どうすればこの課題に答えることができるのか」といった、論理的思考を発揮して調査を計画・実施していくことが主眼に置かれます。

コラム 藤本啓寛助教

授業で学習する内容を少し紹介してみたいと思います。例えば、「授業態度がよい人は、よい成績を収めている」という仮説を立て、アンケートをとって検証するとします。では、「授業態度がよい人」かどうかを、どのように判別すればよいでしょうか。アンケートの分析にあたってはたくさんの回答が必要ですので、調査者自らが一人ずつ観察していくことは非現実的です。では、授業態度を「必修授業の出席率」に置き換えて質問文を作ることは妥当でしょうか。もし必修ゆえにほとんどの人が毎回出席しているならば、出席率にばらつきが出ず、「みんな授業態度がよい」ゆえに成績の違いを説明しにくいかもしれません。そもそも、たとえ出席していたとしても、授業中ずっと寝ている人は「授業態度がよい人」と言えるでしょうか。このように考えると、果たして「必修授業の出席率」を授業態度とみなしてしまってよいのか、疑問が残ります。教育調査Ⅰの授業では、このような推敲を重ね、グループでの学習を通じて知りたいことを適切に知ることができる質問文を作成していきます。

 

アンケートの集計が完了したら、分析を行っていくことになります。例えばアンケートの結果から、日常的に料理をする人が、男性よりも女性の方が40人多かったとします。では、果たしてこの差をもって、「女性である方が日常的に料理をする」と言うことができるでしょうか。それは、回答者数全体に占める男・女それぞれの人数がわからないと判断できそうにありません。例えば、回答者100人のうち、男性30人・女性70人であれば差があると言えそうですが、回答者1000人のうち、男性480人・女性520人であったらどうでしょうか。その差は、意味のある違いと言えるのでしょうか。それとも、たまたま出てしまった誤差に過ぎないのでしょうか。それを判別するうえでは、統計的な考え方を理解し、統計ソフト(SPSS)を用いて検証することが有用に働きます。教育調査Ⅱの授業では、こうした調査結果の読み取りや分析を実践的に学んでいきます。

コラム 藤本啓寛助教

以上で述べた学習内容は、教育調査Ⅰ・Ⅱで学ぶ内容のほんの一部にすぎません。しかし、教育調査における学びが数学や統計だけではなく、むしろ論理的思考を発揮して調査を計画・実施していく力を身に付けることにあることを読み取っていただけるかと思います。現に、先述の手厚いサポート体制も功を奏し、多くの学生がしっかりと力を身に付けて単位を修得していきます。数学が苦手と感じている学生も、食わず嫌いせず、ぜひ積極的に取り組んでみてください。

 

著者プロフィール

藤本啓寛 (ふじもと たかひろ)

教育・総合科学学術院 助教
専門分野:教育社会学,スクールソーシャルワーク
https://w-rdb.waseda.jp/html/100003352_ja.html