アメリカの大学院でみた生涯教育
2023年07月01日/ 照屋朋子
これはアメリカの大学院の授業後に撮影した写真です(2016年2月撮影)。
なにかお気づきの点はありますか?
よくみると、手前のベビーカーに赤ちゃんがおり、右奥の赤いキャップの方は抱っこ紐で赤ちゃんを抱いて座っていることが分かります。
「赤ちゃん連れで」「お母さん達が」大学院で「学び」をしている、ということが当時の私には衝撃的なものでした。
当時の私は31歳独身で、結婚し出産する前にやりたいことは全部やらねば!と息巻いていていました。ですが、アメリカのボストンにあるハーバード公衆衛生大学院で学びの機会を得た際に、その考え方は全く別のものに変わりました。
大学院に来ている多くの学生が社会人経験者で、家族同伴で留学しに来ている人も多く、中には写真の様に、大学院在学中に出産し子育てをしながら学んでいる方々もいたのです。
それまでの私は「大学院生」ときくと、20代の若者を思い浮かべていました。しかし、ハーバードの大学院では、党首を務めるような政治家、大学で教鞭をとる教員、複数の病院でキャリアをつんだ医師など、30代以上のプロフェッショナル達が、一時、仕事を中断し、1年から2年の間、学びにきていました。
ある30代の方に「仕事を中断し、キャリアが途絶えることはリスクだと思いませんでしたか?」と聞いたところ、「その逆です。学ばない方がリスクですよ。仕事の範囲で知れる新たな技術や知見は限られています。半径5mの学びではく、視野を全世界に向けること、つまり世界中の英知から学びを得たプロフェッショナルこそが世界を変えれるのです。」と返事をもらいました。
また、ある50代の方は「人類に貢献するために、自分は何をすべきかを考えた結果、2年かけてじっくり学ぶことが必要だと思いました。つまり、公の志から自分の行く末を考えたのです。自分のキャリアにとって良いか悪いか、や、キャリアの中断がリスクだとか収入が一時途絶える等、自分にとっての利益不利益を考えて行動を制限していては、人類に貢献はできません。」と言っていました。
ハーバードでは「世界を変える」「人類への貢献」という言葉をよく耳にしました。学生や大学の先生だけでなく、事務の職員さんなど大学に関わる全ての人が、これらの言葉を多用していました。世界を変え、人類へ貢献することが当たり前のことかの様に捉えられている雰囲気は私にとって新鮮であり、かつ10代の頃の純粋で夢にあふれていた頃を思い起こさせました。
それまでの私は結婚し家庭をもったら、仕事を中断して大学院で学ぶという選択はできないという思い込みがありました。また学ぶことは10代20代の学生がすることだというイメージに囚われていました。しかし、ハーバードで多くのプロフェッショナル達から刺激を受け、社会人になって、社会で経験を積んだ人だからこそ得られる視座をもって、「人類に貢献するために」新たに大学院で「学ぶ」ということの重要性に気付きました。
この経験が、34歳で早稲田大学の博士課程に進学し、新たに「学ぶ」ことを選択した私のキャリアに繋がっています。
著者プロフィール
照屋朋子 (てるや ともこ)
教育・総合科学学術院 教育学部 助手
専門分野:自立支援
https://w-rdb.waseda.jp/html/100003737_ja.html