アカデミックスキルを学ぶ生涯学習基礎演習
2023年08月27日/ 藤本啓寛
このコラムでは、生涯教育学専修の1年次春学期必修の科目「生涯学習基礎演習」の紹介をしたいと思います。1年の春学期の必修科目ということは、生涯教育学専修に入学した全ての学生に履修することを求めている科目ということです。そこで、なぜこの科目が必修になっているのか、そしてこの科目を通じてどんな力を身につけてほしいのかを、科目を担当する教員の目線でご紹介したいと思います。
「生涯学習基礎演習」が1年次必修になっている背景には、大学に入学したばかりの1年生が、大学における学びを深める上で必要とされる種々の能力・「アカデミックスキル」を身に付けないままに授業を受けることで、学びが深まっていないことに対する問題意識があります。
アカデミックスキルにはいくつかの種類があります。例えば、先行研究を調べた上でオリジナルな問いを立てる力、学術的・論理的な文章の作成や発表をする力などが挙げられるでしょう。大学の学びは、与えられた事項の理解・暗記ではなく、未だ明らかになっていない新たな知見の発見です。上述の力はいずれも、新たな知見を発見するために必要不可欠な力といえます。先行研究を調べなければ自らの新しさを主張できませんし、学術的・論理的な文章や発表を作ることができなければ相手に伝わらないからです。これらを身に付けないままに学生生活を送ると、さながら“お客様”のように授業を聞き、適切な書き方がわからないまま漫然とレポートを書いて卒業するという事態が生じてしまいます。これはあまりにももったいない話です。だからこそ、大学1年生の間に「生涯学習基礎演習」が必修とされており、授業を通じて生涯学習について主体的に学ぶためのアカデミックスキルを身につけていただきたいと考えているのです。
アカデミックスキルを習得するためには、学生にとって最も身近な「大学」における生涯学習の場に飛び込んで、経験的に学んでもらうのが一番だと考えました。そこで2023年度のBクラスでは、3つのグループに分かれ、それぞれ図書館・博物館・エクステンションセンターにおける生涯学習上の課題についての研究に取り組みました。
まず、各施設の概要ならびに生涯学習において果たす役割について調べた上で、オリジナルな問いを設定しました。早稲田大学図書館が提供する書籍やデータベースを最大限に活用しながら、各グループが定めた問いに答える上で役立つ資料を探し、まとめました。
次に、先行研究の検討を通じて洗練された問いに対する答えを導くために必要な質問項目を考え、各施設の職員に対する聞き取り調査を実施してもらいました。もちろん、聞き取り調査の前の準備も怠りません。質問を作ったら何度か質問のシミュレーションを行って質問項目を修正する他、相手の反応をふまえて即興で質問するといった臨機応変な対応力も高めていきました。
そして、聞き取り調査で得られた音声を文字に起こしたうえで、付箋や模造紙上で並び変えたりつないだりして分析し、それをまとめて発表会で発表しました。この発表会には、聞き取り調査に協力してくださった職員の方や、生涯教育学専修の先生方にも来ていただき、発表内容に対してコメントをいただくことができました。
なお授業のたびにレビューシートを提出してもらい、次の授業で一部抜粋してフィードバックを行うことで、学生の疑問や関心に応えつつ、今学んでいることの目的や意義などをつど確認しながら進めました。また提出されたワークシートやパワーポイントには細かくフィードバックを行い、フィードバックをふまえた再提出を通じて提出物の質を高められるように工夫しました。
以上の学習を通じて、受講した1年生は、先行研究を調べた上でオリジナルな問いを立てる力、学術的・論理的な文章の作成や発表をする力を身に付けることができたように思います。またこれに加え、聞き取り調査を実施・分析する力も身に付けることができたのではないでしょうか。毎週の課題とグループでの協議はハードだったかと思いますが、取り組んだ分だけ力がついていることかと思っています。この場を借りて、本授業の運営に協力いただいた職員の皆様に御礼申し上げると共に、生涯教育学専修の1年生が大学における学びを深めていけることを願っています。
著者プロフィール
藤本啓寛 (ふじもと たかひろ)
教育・総合科学学術院 助教
専門分野:教育社会学,スクールソーシャルワーク
https://w-rdb.waseda.jp/html/100003352_ja.html