【イベントレポート】トークセッションを深掘り!Part1 大学での豊かな学びの鍵①「アウェイ経験」について語る

2025年07月02日/ 管理人

2025年6月1日、東京・世田谷区にて、早稲田大学教育・総合科学学術院教授の濱中淳子先生と、濱中先生の元教え子であり、スタディサプリ社会科現役講師の伊藤賀一先生によるトークイベントが開催されました。本イベントは、濱中先生の著書『大学でどう学ぶか』と伊藤先生の著書『もっと学びたい!と大人になって思ったら』(いずれも、ちくまプリマー新書/筑摩書房)の刊行を記念して企画されたものです。

3本立てでお届けするイベントレポートの第二弾となる本記事では、トークセッションを深掘りします。テーマは、濱中教授が著書『大学でどう学ぶか』で提唱する、大学での豊かな学びに不可欠な「アウェイ経験」。お二人はそれぞれ、どのような「アウェイ」を経験したのでしょうか。ぜひご覧ください。

(第一弾はこちら

濱中淳子×伊藤賀一 『大学でどう学ぶか』『もっと学びたい!と大人になって思ったら』W刊行記念トークイベント

 

濱中先生・伊藤先生それぞれの「アウェイ経験」

濱中先生の著書『大学でどう学ぶか』が説く、豊かな学びへの第一歩。それは「アウェイの世界に飛び込む」ことです。イベントではまず、濱中先生ご自身の人生を方向づけることにもなった「アウェイ経験」が語られました。


 

濱中先生

私にとっての「アウェイ経験」は、東大で比較教育社会学コースに進んだことだ、といえるように思います。2年生の秋に初めて受けた教育社会学の入門授業があまりに衝撃的で、今でもよく覚えています。

その授業をご担当されたのが、苅谷剛彦先生だったんですよね。苅谷先生は第一回目の授業の最初、ひたすら黒板に英語の文章を書かれて。educationとかsociologyっていう単語が入っていたので、これはメモっておかないと!重要なことを書いているんだろうなって思ってノートに書き写し始めました。周りの学生たちも同じような状況でした。

そうしたなか、苅谷先生が突然、くるっとこちらを振り返って、「君たち、なんでそんなに一生懸命ノート取ってるの?僕、写せなんて一言も言ってないよね?」って言ったんです。一瞬、教室の空気が凍りついたように感じました。そして、続けてこう言われました。「君たち、知らないうちに“学校化”されているんだよ」と。

もう、まさに「???」でした。何を言われたのか、すぐには理解できなかった。でも、心のどこかがざわっとして、まるで頭をガツンと殴られたような衝撃があったんです。

それまで、学校という場や教育という仕組みに疑問をもつなんて、考えたこともありませんでした。疑う理由なんて、あるとも思っていなかったんです。だけど、「え、どういうこと?」「学校化って何?」「私は何に従っていたんだろう?」という問いが、一気に押し寄せてきました。

その授業をきっかけに、私のなかで何かが大きく変わりました。「学校を疑ってもいいんだ」「教育って、外側からも見ていいんだ」と思えるようになったんです。ただ受け入れるだけじゃなく、少し引いて、冷静に、客観的に見てみよう――そんな視点が芽生えた瞬間でした。

濱中淳子×伊藤賀一 『大学でどう学ぶか』『もっと学びたい!と大人になって思ったら』W刊行記念トークイベント


 

理系から思い切って教育学部(教育社会学コース)に進学し、卒業後、修士・博士課程へと進み、今や教授として教鞭をとる濱中先生。自らの常識が覆される衝撃的な学問との出会いこそが、自分の生きる道を見つける手掛かりとなった「アウェイ経験」であったことが伝わります。

一方、伊藤先生の「アウェイ経験」は、大学入学直後のリアルな“あるある”ギャップの中にありました。周囲との「ズレ」から始まった、伊藤先生の「アウェイ経験」が語られました。


 

伊藤先生

僕は、法政大学に入学したのですが、入学してすぐ「アウェイな感覚」を覚えましたね。周りの大学生と全然話が合わなかったんです。僕の出身高校は、京都の洛南高校っていうそれなりの進学校で、そこ出身だと、基本早慶くらい受かっていないといけないんです。でも、受験失敗しちゃって法政大学にきたので、全然話が合わない。こんなことも知らないの!?こんな本も読んでないの!?ってことが日常茶飯事でした。

でも、それが意外と結果オーライで。それから、大学ではあまりコミットしないことになり、代わりに外で塾や予備校の講師として仕事をすることにしたんですけど。外では、自分よりも、学歴やスキルが格上の人たちに囲まれながら仕事をしてました。だから、学校の中も外も、アウェイな環境でした。吹きこぼれも落ちこぼれも両方経験するような4年間を過ごしたことで、「アウェイな環境に飛び込む」ことが怖くなくなりました。むしろ、「あえてアウェイの環境にでて、何かつかんでこよう」っていう風に思うようになりました。だから、43歳でもう一度大学一般受験に挑戦して、早稲田大に行こうっていう発想にもなったんだと思います。

濱中淳子×伊藤賀一 『大学でどう学ぶか』『もっと学びたい!と大人になって思ったら』W刊行記念トークイベント


 

入学早々周りの学生と話が合わない。そんな学内での周囲とのズレをバネに、あえて学外の厳しい環境に飛び込んだ伊藤先生。この2つの「アウェイ経験」が、「あえて新しい環境に飛びこみ、何か掴んでこよう」という積極的な姿勢を育み、生涯学習を体現する現在の伊藤先生の姿へと繋がっているのではないでしょうか。

 

第三弾では、もう一つの豊かな学びの手がかり「教員の活用」について交わされたお二人のトークセッションの模様を深掘りします。「教員を活用する」とはどういうことなのか、どうしてそれが重要なのか。お二人の実体験から見える、「豊かな学びの鍵」について迫ります。お楽しみに!

 

著者プロフィール

管理人 (kaerukun)