図書館と生涯学習
2022年01月20日/ 雪嶋宏一
インターネットが普及するにしたがって、ネットで読むことができるニュースや記事、論文、さらには図書が増大している。しかもそれらの多くが無料で提供されている。その影響もあって図書館の役割が見直されるようになっている。従来は、図書館で図書、雑誌、新聞、視聴覚資料等を収集し、それを無料で閲覧提供し、貸出しすることが図書館の最も重要な役割であった。この役割は現在でも基本的には変わらないが、図書館以外でも資料を簡単に利用できるとなれば、図書館は従来の役割を考え直さなければならない時期に来ている。
しかしながら、公共図書館の利用者の多くは従来の図書館の貸出しサービスにおおよそ満足しており、それ以外のサービスをあまり要望しない。むしろ、それ以外のサービスが図書館にあることもあまり知らない人が多い。
最近、公共図書館も社会の変化に応じて電子資料を扱うようになってきた。しかし、図書館が電子資料を扱うことに疑問に思っている人がいる。学生でさえ、図書館は印刷資料の味方であると固く信じているのである。このような考えを持つ原因は、実際の公共図書館で利用できる資料の大半がまだ印刷資料であることにあろう。電子資料はコンピュータを通してしか見ることはできないために、図書館に行っても印刷資料しか見えない。ところが、現実の図書館には電子資料が徐々に入ってきており、電子資料の便利さを知った人によって利用されるようになっている。
印刷資料と電子資料の両方の資料を自由に利用できる図書館はハイブリッド・ライブラリーと呼ばれている。この言葉が日本に登場したのは今から15年以上前であり、すでに新しい言葉ではないが、日本でハイブリットな公共図書館が急増したのは何と2020年である。新型コロナウィルスのパンデミックにより、公共施設のほとんどが閉鎖され、図書館も例外ではなかった。そのため、通常の印刷資料の利用が不便になった。2020年夏以降に図書館が再開して制限つきであったが利用が可能になった時でも、ウィルスの感染を恐れて図書館の印刷本を手に取って利用することに不安を感じる人もいた。そこで注目されたのが電子資料の利用である。電子資料の利用は非接触サービスであり、資料を介したウィルス感染の危険性はない。
ところが、図書館は市販されている電子書籍を直接購入して利用提供することはできない。図書館が電子書籍を利用するためには、既存の電子図書館システムを導入する必要がある。電子図書館は大学図書館等ではすでに普通に利用されているが、公共図書館への普及は遅れていた。それが、コロナ禍で公共図書館での電子図書館導入が一挙に広まったのである。実際にどのくらい利用されているのか正確なデータは詳らかでないが、公共図書館の利用者にも電子図書館が一挙に開館したと言ってよい。しかし、既存の電子図書館にも多くの問題があるため、この機に図書館界で議論して、もっと使い勝手の良いものにしていく必要がある。
現在、公共図書館では閲覧席の利用も時間制限を設け、集会行事を思うように開催できないため、生涯学習の機会を満足に提供できていない。このような期間が長引けば、コロナ後に図書館に利用者がどれだけ戻ってくるのか不安である。インターネットで必要な資料を収集して利用することができようになれば、資料の利用目的だけでは人々は図書館を利用してくれなくなるだろう。つまり、資料提供だけのサービスでは図書館は生涯学習施設としての役割を失ってしまうのである。
そのため、図書館がやるべきことは、自宅からオンラインで利用できる電子資料を増やし、さらにその他のオンラインのサービスも同時に増やしていくことである。図書館はこんな時にも自由に利用できて、生涯学習に役立つ施設であるということをアピールすることである。さらに、図書館は他のどの施設にも負けないような優れた読書環境を提供することである。ポスト・コロナの図書館は、安心して過ごすことができるサード・プレイスであり、多様な生涯学習の場であり、市民から優先的に選ばれる施設とならなければならない。
著者プロフィール
雪嶋宏一 (ゆきしま こういち)
教育・総合科学学術院 教育学部 教授(2023年3月定年退職)
専門分野:図書館情報学,西洋書誌学,書物学,人文社会情報学